2013-02 Archive

2013年の青春Hシリーズ第27弾、いまおかしんじ監督『星の長い一日』。




製作は松下順一・沼尻孝、企画は高正年、プロデューサーは小貫英樹・奥野邦洋、脚本はいまおかしんじ、音楽は池田丈、撮影は佐久間栄一、整音は日下部雅也、編集は小泉剛、助監督は奥本裕也、制作プロダクションは東京レイダース。製作は娯楽TV・ひかりTV、配給・宣伝はアートポート。
2013年/日本/カラー/86分/ビスタサイズ/ステレオ/blu-ray


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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星（荒井タカシ）は、尿意に身悶えしながらワカ（大城かえで）の住むアパートのベランダにいる。ふと見つけたペットボトルに放尿していると、ワカが干していた下着を取り込みに出て来る。身を縮める星だが、ワカは気づきもしない。彼女がトイレに入ると、星は空き巣に忍び込んだ。

コンビニの前でボーっとしている星。出て来た店員の良江（藤崎エリナ）に煙草をねだると、彼女は快く恵んでくれた。そんな彼女に一目惚れした星は、後をつける。






マンションの部屋に入ろうとした良江を羽交い絞めすると、星は部屋に押し入った。「やらせてくれれば、乱暴しないから」という星に、良江は「分かりました」と言う。いざ事に移ろうとした星だったが、コンドームを着けて欲しいと言われる。しかも、この部屋にゴムはなかった。
星は、「ちょっと待ってて」と言うと慌て部屋を飛び出して行った。









星は、良江がバイトしているコンビニに戻ってコンドームをくすねようとするが店長（守屋文雄）に阻止されて断念。
しかし、どうしても良江とやりたい星は、また空き巣に入る。そこで、住人の万（川上洋一郎）と鉢合わせ。万は、思わず星を刺してしまう。
腹を刺された星の服は、みるみるうちに血で染まって行く。動揺した万は、部屋から逃走。残された星は、一人のたうち回る。




途方に暮れて歩いている万は、クラスメイトのワカとバッタリ会う。ワカは、今朝トイレで排便時に作った下ネタの歌を口ずさんでいる。彼女は、能天気に万を部屋に誘った。
その頃、星のところにアニ（佐藤宏）とシロ（水井真希）というおかしな関西弁を話す二人組が闖入して来る。驚くでもなく、「こいつ、死ぬで」と指さすシロ。アニは、愉快そうにクスリをキメるとシロとセックスを始める。
あろうことか、アニは苦しむ星の顔に向かって射精したり、星に無理やり薬を飲ませたりとやりたい放題。シロはシロで、「しゃぶったろか？」と星の股間に顔をうずめる始末。シャブ中のシャブりでは、まったくシャレにならない。
そうこうするうちに時間は経ち、星の体からは血液が失われて行く。二人には、星を病院に連れて行くという発想がないらしい。







ワカは、山盛りのミートソース・スパゲッティをズルズル食べながら、万を誘った。とにかくこの現実から逃避したい万は、ワカを抱いた。
素直で可愛いワカに、万は救われた思いですがりつく。突然泣き出す万を、ワカは戸惑いながらも優しく包み込んだ。




星は、生死の境を彷徨いながら幻覚の中で良江とセックスしたかと思えば、アニとシロによって現実に引き戻されてまたのたうち苦しむ。
彼は、無理やりやらされたクスリで元気になったかと思うと、次の瞬間にはまたうずくまる。
多分、もう駄目だとさすがに星は考え始め、やけくそで薬をやってはシロと交わった。
アニは、「お前を刺した奴に、し返ししたれ」と言うと、部屋を出て行った。

星は、もはや死を意識しながらシロを抱いている。「セックスって、楽しいなぁ…」と涙ぐむ星に、シロは「笑うんや」と言った。その時、シロは感じた。運命が変わり、星は死なない…と。
その頃、ワカとセックスしている万の元にアニが押し入って来る。そのまま、アニはワカの中にまで押し入った。事が済んだアニは、「お前は、死刑じゃ」とがきデカのこまわり君の真似をしながら万を引っ張って行った。

星の前に万を差し出すと、こいつを同じように刺せとアニは言った。もはや、滅茶苦茶だ。すると、シロがアニに言った。この男は死なない、と。
すったもんだの末に、アニとシロは出て行ってしまう。残された万は、痛みに耐える星を背負って病院へと急いだ。

こうして、星の長い一日はようやく終わろうとしていた。
一方のアニとシロは、次はどこへ向かうのか…。

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ピンク映画を撮っていた頃から、群を抜いて風変りな作家性を誇っていたいまおかしんじ。おおよそ性的高揚とは程遠い彼の奇妙な映画が、僕は好きだ。
そのいまおか作品の中でも、本作は突き抜けて奇妙奇天烈な代物であった。

本作の脚本は、今を遡ること15年前にいまおかがピンク映画用に書いたシナリオ『アニシロ』が元になっている。
フライヤーによれば、「90年代後半、オウムや神戸の震災があった後で、自身も（7年付き合った）女に振られたショックをずっと引きずっていて、みんな死ねばいいとか、思い詰めていた。自暴自棄だった。そんな気持ちを込めて書いたシナリオだった」とのことである。

僕が鑑賞した初日の夜、舞台挨拶の壇上でいまおか監督は「これで、このホンも報われた」と呟いていた。
80年代までの国映＝新東宝映画ラインならいざ知らず、1998年当時の状況を考えれば、さすがにこの脚本ではピンク映画なんか撮れなかっただろうな、と思う。
それくらい、この作品が提示する物語は人を食っている。

とにかく、この作品は何一つ説明しないし、誰の人間性も一切掘り下げない。星という男のバックグラウンドも、アニとシロが何者なのかも。
星はただ、自分の今を嘆きながらひたすら自分本位にセックスしたがるだけだし、アニとシロはおかしな関西弁を吐きながらドラッグを貪り本能赴くままセックスするだけだ。
そこに、良江、ワカ、万というこれまた何を考えているのかさっぱり分からない人物が絡む。ただ、それだけの物語。

映画を観ていて印象に残るのは、星のリビドーと死への恐怖、万の自己憐憫的なぼやき、放送禁止のP音にワカのお下劣な歌である。潔いくらいに、何もない。
あるのは星の妄想を含めた「セックス、ドラッグ&バイオレンス（と言うほどでもないが）」である。
他の監督がやったら「何じゃ、こりゃ！？」な世界なのだが、いまおかしんじだと「…まあ、いいか。これはこれで、いまおか作品らしいし」と妙に納得させられるところが、彼の作家的人徳である。

15年前のいまおかの精神状態を反映したハチャメチャなこの映画の見所といえば、誰が何と言おうと出演女優三人それぞれの魅力。それに尽きるだろう。
シロという白痴的にフワフワと突き抜けた役を、水井真希はまるで役が憑依したように好演している。あまりパーフェクトなはまり具合だったから、この役は水井以外には考えられないかもな…と思ったほどである。
これが演技初体験という藤崎エリナ。本人も認めているが、彼女の演技は心細げで相当に拙い。ただ、儚げな笑顔が魅力的だし、星の妄想の中での絡みは何ともいえず好ましかった。

で、この二人もいいのだが、個人的には大城かえでがとても良かった。彼女は、去年ピンク映画に三本主演していて、何とも気になる存在だった。
大城かえでは、役を自分の側に引き寄せるのでなく、役の中に入り込んでその人物になり切るというタイプの女優だと思う。そのなりきり方が、とてもナチュラルなのだ。
今回のワカという女の子も相当に変わった役であるが、それを大城が演じると不思議に人としての体温が付与されてしまう。可笑しな下ネタの歌を唄っても、ズルズルとスパゲッティを啜っても、何とも憎めない。それに、彼女の笑い方ってどうしてこんなに自然なのだろう。
演技としての白眉は、川上洋一郎との絡み。あの母性的な包容力は見事の一言である。

本作は、恐らく青春Hでしか撮れないモンドな企画である。ただ、女優三人の魅力を堪能するために観て損しない一本。
本当に、変な映画だけど。




余談ではあるが、ラストを観て「そこは、救急車を呼んであげて！」と突っ込まないのが大人の優しさである。